講義名: 中国新文字の問題
時期: 昭和25年
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倉石武四郎博士講義ノートアーカイブ

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成立を助けることを主張する人もあるが、絶弁であって、一度文字にしたら独立した言語になるし、外国語になって共通語でなくなる。上海でも普通語が各機関で行われている。上海人は上海語の文字を学ばずに直接普通語の新文字を学ぶことになる。・・・全民の共通語は人為的ではいけないし、突然変異はありえない。中国では資本主義になってからの変化は不十分であるが、長い封建時代に全民性の共同言語ができていた。元明清から今日の白話文にいたる北京語がそれで、全民の共通語はその上に立たねばならない。それは各方言が集中して勝ちを占めた北京語、特に西城一帯の言語であるから、現代の全民性の共通語はこうしてできた北京音系を標準とするべきである。その発展の方向は、今さら急いで方言を融合させることが重要な課題ではなく、すでに数百年にわたってできているので、今まで融合されてきた方言をもう一度合せても無意味であり、また急な人為では決して成功しない。しかも北京語は封建時代の陳腐な要素を失い帰納包堆のような土語

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も亡び、語尾に加わる児も減じ、進んだ謙遜のことばも中和され、またこれを工具として茅盾の「子夜」や曹禺の「雷雨」のような文学が作られている。そこに幾十年来進歩した作家の文字化に対する努力が報いられている。すべて北京語には突然変異がなかった。ただその基礎を豊富精密、明白清晰、拡大改進しただけで、その要素や文法や基本語詞は失っておらず、また保存して継続生存している。もとより翻訳文体や新しい文字語の影響は受けたが、その新しい部分も口語の上に根を生じたから成長できたのである。これは別に同文政策でもなく、方言抑圧政策でもない、方言は独立に発展できない性質のもので、これを文字化するには全民共同の路に進むべきである。つまり中国全民族共通語の形成と文字化とのために北京語を基礎とするべきで、他の方言土語は民族共通語の支脈にすぎない。
さて、文字化のためには(一)北京語を生きた基礎とする方言土語を文字化して独立言語としないこと。(二)言語は人為でなく、文字化は口語の真相を離れないから、声調をすててはいけない。(三)方言は複雑だし急には変えられないから、北京語を基礎としても各地方人の学習に使すること。(四)以上の三原則を根拠にして改革し、学為化して人衆の学習と運用に使せよ。[brm]

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ということが、詳細に論じられていて、ちょうど三十年前の京国問題が新しい地盤と用語とによって蒸し返されたといえる。